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さんがつのそらのした
三月の空の下
小川 未明
「民政」1934(昭和9)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,005 字 · 6 页
人のやさしみというものをしみじみと味わわなかった私は、せめて死の際だけなりと、医者にかかってしんせつにしてもらいたいと思って、苦しい中から、これだけの貯金をしたのである。どこで私は死ぬかしれないが、おそらく、しんせつな医者を探しあてて、その人の手にかかって死にたいと思っている。この金で死後の始末をしてもらい、残りは、どうか自分と同じような、不幸な孤独な人のために費ってもらいたい。」
こういうようなことが書いてありました。終生独身で過ごした、B医師はバラック式であったが、有志の助力によって、慈善病院を建てたのは、それから以後のことであります。もちろん、老人の志も無とならなかったばかりか、B医師は、老人の好きだったらしいすいせんを病院の庭に植えたのでありました。
しかし、A病院は、いまも繁栄しているけれど、慈善病院は、B医師の死後、これを継ぐ人がなかったために滅びてしまいました。その建物も、いつしか取り払われて、跡は空き地となってしまったけれど、毎年三月になると、すいせんの根だけは残っていて、青空の下に、黄色い炎の燃えるような花を開きました。そして、この人の心臓に染まるような花の香気は、またなんともいえぬ悲しみを含んでいるのです。