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さんがつのだいよんにちよう
三月の第四日曜
宮本 百合子
「日本評論」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,826 字 · 42 页
後から後からとむらのない速力で陸続通り過ぎて行く自転車の流れを見ていると、体のなかで血がそっちへ引かれてゆくような、面白くて悲しい気分がした。たまに同じ車道のあっち側を逆に向ってゆくのがあると、それはペダルを踏んでいる脚の動きまで目に見えて重そうだ。
遠い路のどこかの辺を、勇吉も今頃そうやって帰っているのだろう。その姿を想像しようとすると、サイの心には、まだ田舎にいた時分、サドルをはずして横棒の間から片脚むこうのペダルへかけ、腰をひねって乗りまわしていた弟の様子が泛んで来るのであった。
五
「お早うございます」
サイは何心なく五六人かたまっている方へよって行った。
「おはようございます」
なかの一人がふり向いてそう云ったきり、みんなぶすっとしている。眼をしばたたいて、サイは小声で、
「どうかしたの?」
と訊いた。
「ふーん」
「そりゃ誰だって気持がわるいわヨ、ねえ、火曜日にさ、何てみんなで決めたの。誰だか知らないけれど、出しぬいて自分だけ好い子んなって不動様のお守りもってったり、防弾鏡もってったりするなんて――きらいだ」
作業室の娘たちの代表で、とも子とみのるが、昨夜川口にある飛田の家へ千人針と餞別の金とを届けに行った。