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さんがつのだいよんにちよう
三月の第四日曜
宮本 百合子
「日本評論」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,826 字 · 42 页
上野の駅からこの三十四五の痩せぎすな女の疳性らしい横顔がサイにいい印象を与えていなかったのであった。
その女のひとは、教員のそばへよって小腰をかがめながら何か二言三言云った。
「は、いや、御苦労様でありました」
改めて勇吉の方へ向き直って、
「けさは会社の支配人さんがお出でになる筈でしたが御病気だそうで、奥さんが代りにおいで下すったそうです」
勇吉はきちんと礼をして列に戻って行った。雇主にあたる人々と出迎に来た少年の身内のものも形式ばって引合わされたが、サイをまぜてそれはほんの五六人であった。
それから教員は短い訓示を与えた。東京の悪い誘惑にまけないで立派な産業戦士になるように。
「困難な場合がおこっても、諸君が今朝東京の土を踏みしめたこの第一歩の心持を忘れずに、どうか勇気を奮いおこして下さい。万歳を三唱いたします」
雇主側の人々が前列に、うしろに少年達が並んで、万歳、万歳、万歳と三度叫んだ。朝の陽かげは益々砂利の広場を広々と照し出して、一行の姿も小さく見え、叫ぶ声も風の中へとんだ。
界隈はずっと軒なみ問屋で、サイと勇吉がよりかかっているガラス窓越しに、隣りの裏手の物干が目の先に見えた。