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さんりょうきょう
三稜鏡
佐左木 俊郎
(笠松博士の奇怪な外科手術)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,347 字 · 42 页
そして私は激しい焦燥に襲われるのであった。遣瀬の無い焦燥が全身を駈巡って、心臓が熱く激しく急速度の動悸を打出して来る。同時に頭部が沸って来る。続いて眩暈が来る。私はそして、何時の間にか二片の肉塊の間に頭を突込んだまま意識を失って了うのであった。
何時まで経っても、私には、実際の解剖や切開などの、手術の場所へ立会う機会は来なかった。況して、私自身が、生きている人間に対して執刀するような機会などは、勿論無かった。何時まで経っても研究のための実験であり技術を磨くための練習であった。
併し、私にもとうとう、生きている人間の手術によって、自分の腕を試して見ることの出来る日が来た。それは博士の令嬢が首のところへ腫物を出したからであった。私は、博士が丁度留守だったので、早速、令嬢を研究室に連れ込み、手術台の上に仰臥させた。私を信じきっている令嬢は従順に、而も少しの恐怖をも抱かずに、手術台の上に仰臥して私の手術を待った。私は直ぐ締紐で、令嬢を、全然動くことの出来ないようにその手術台の上に縛りつけたのであるが、困ったことには、私は何等の麻酔剤をも持合せていないことであった。