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さんかくけいのきょうふ
三角形の恐怖
海野 十三
「無線電話」1927(昭和2)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,969 字 · 24 页
それを今まで知らなかった私は万事にどの位驚き続けたことであろうか。しかし今となっては何事も全て遅いのだ。
もはや御察しの通り私は八年ほど昔、君の姉さんである時子と恋に陥ちていたのだ。私は二十五で、時子は二十だった。二人の恋は偶然なところから結ばれて秘密裡につづけられたので私達の間のことは恐らく君の母君とても御存知あるまい。
私は二十五といっても、全くお坊っちゃんであったし、時子はどうかというと其の病気の所以もあったのであろうか、年よりもずっと進んだ気持を持っていた。私は五つ下の彼女が私に振舞った年上らしい熱情を今でもはっきり思い出すことが出来る。
ここへ書くのも恥かしいことだが、無反省な若い心を持っていた私は不図した事から時子の胸の病を知って驚いた。それと同時に余りはげしすぎるように思われる彼女の熱情がたえられない程いやに思われて来て私は遂に彼女と別れる気になった。
忘れもしない今から八年前の今日のことだ。いつもはわざと住居から遠くはなれて秘密な恋を味い喜んだあの佃島で私ははっきり切れ話を持ち出した。時子の慨きがどんなであったか、それは想像に委せる。