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さぶろうじい
三郎爺
宮本 百合子
「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 页
飼われた七面鳥などは、餌などをちゃんと貰ったことはない。頼んだ下駄を、いつまで待っても出来(でか)さないので、さっさと取り戻して行ってしまう。
家があるのは名ばかりで、彼はふらふらと足にまかせ、風来坊のように暮していたのである。そのとき、彼の心の中にはどんなことが起っていたのか、私には、はっきり云えない。彼もまたそう明瞭に、俺はこう思うという心持もなかったのだろう。
そして、ようやく彼が忘られようとしていた或るとき、突然、まったく思いもかけず、村の者が抱腹絶倒するようなことが突発した。
それは、あんなにして、自分で顔まで剃って嫁づけた女房を、彼がいきなり行って、引っ攫(さら)って来たという、いかにも彼らしいことが起ったのである。
或る日、フイと女房の後妻になっている店先へ現れた彼は、帳場の側に坐って、何か選りわけている女房の顔を見ると、とてつもない大声で、訳の分らないことを二口三口立て続けに喋ると、やにわに手を延ばして、女房を掴んだ。
そして、彼がどこの何者だか知らない亭主が、あっけにとられて、眼ばかり瞬きながら、茫然自失している隙に、女房の手を小脇にかいこむと、彼の能うかぎりの全速力で駈け出した。