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さぶろうじい
三郎爺
宮本 百合子
「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 页
がしたそうである。
けれども、それが悲しさであったのだろうと、一言の説明を加えない彼は、やはりそのときも、それが何だか知ろうとも考えようともしなかったのだろう。
彼はただ、門の傍にどんなにおいしそうな柿が熟れてい、それをどんなにして、行った早々の自分が盗み、どんなに満足と勝利の感に充たされながら、話している和尚と親父の傍で食べたかということだけを、はっきりと覚えている。
それほど、その蔕(へた)の方から腐りかけていた一つの柿が、彼にとって重大であったのである。
三
それほど、その柿が重大であるには訳がある。
彼は、もちろん親父も和尚も知るまいと思ってしたのだったが、案外なことに和尚さんはちゃんと知っていた。そして知っていたばかりか、今、親に別れて、他家へ寝とまりしなければならなくなった子供とは思えない胆の太いところがあると云って、讃めたのだそうだ。
親父はいい子を持ったと云われて大いに面目を施し、村へ何よりの土産にその言葉を持って帰った。
私には、胆が据わっているとか、太いとかころ柿を盗んだかどうだかは分らないが、ともかく、彼は和尚さんのお気に入った。