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さぶろうじい

三郎爺

宮本 百合子

「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 页

青空文庫

三郎坊主、三郎坊主と云って、お斎(とき)の出る所へのお伴は、いつも彼に云いつけられ、

「この小僧はな……」

という言葉を前置きにしては、あの柿の一件を行先々で吹聴される。するとまた、聞くほどの者が、皆感歎する。そして、今まで呉れそうもなかった菓子など、よぶんに挾んでくれたりする。

彼は得意にならざるを得なかった。夜、和尚さんに炉辺で、一休和尚の話を聞いては、ひそかに、自分の身の上と比較して見たり、夢想して見たりはしたけれども、不仕合わせなことには、文字が生れつき性に合わないと見えて、一字覚えるに、非常な苦しみをしなければならないのが、いつも彼の愛すべき得意に、暗い裏をつけた。

村の仲間に自慢されるのに張合づいて、手紙は立派に書きたい、立派に書きたいという必要に迫られて、手習いはする。

けれども、読むこととなったら、もう駄目である。始めの五六字こそ、気根をこめて、大きな眼を見張りながら、四苦八苦して読み下す。二度も三度もその五六字を往来して、ようよう訳が腑(ふ)に落ちると、また次の五六字へ辛うじて進行する。蛞蝓(なめくじ)が這うようにといっていいか、何といっていいか、驚くべき緩さで、長閑(のどか)に辿っているうちには、とかく気まぐれな考えの緒が、あらぬ方へ紛れ込みそうになる。