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さんじゅうちゅうがえりのき
三重宙返りの記
海野 十三
「航空朝日」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,000 字 · 4 页
「はい、乗りましょう」
といって、オーバーの釦に手をかけた。これが最初の宙返りであった。意志というか覚悟というか、それの宙返りであった。決意してしまえば、元々好きなことなんだから、とたんに、わがからだはもうふわっと空に浮んだようだった……。
機は約千五百メートルにとびあがった。
はるかな地上には煙霧が匐い、夕陽はどんよりと光を失い、貯水池と川とだけが、硝子のように光っていた。と、突如、からだがぐーっと下に圧えられた。機は奇妙な呻りをたてはじめた。いよいよ始まった、宙返りが……。
宙返りをしていることは、はっきり分っているくせに、「自分は今、本当に宙返りをやっているのかしら、夢を見ているのではないか」という疑念がしきりと湧いた。
――そのとき、虚空と大地とが、まるで扁平な壁のように感じられた。空は湖のようだ。ぐうーと水平線があがって、上から巨大なる島が下りてきた――と思ったら、それは島ではなく、わが地球であったのだ。芝居の背景が、ぐるぐるまわっているような感じでもあった。僕は、ひたすら錯覚の世界を追っていたのだ。
はげしい横転の始まった瞬間には、僕の身体は、機外においてけぼりにされたように感じた。