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シャンハイされたおとこ
上海された男
牧 逸馬
「新青年」1925(大正14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,665 字 · 18 页
「神戸だ」
「なに、神戸? 四、五日機関が廻っていたと思ったが――」
「それがよ、此の俺が手前を殺らしたって騒ぎで、それで俺あ此船へぶらんてんしたんだ。すると、いいか、陸から無電が飛んで来て船は召還よ。いってえ、あの梨を剥く時手前に借りた此の小刀が好くねえ、おまけにあれで指を切ってるじゃねえか」
その小刀を逆手に持って為吉は奥炭庫の前の鉄梯子に腰を掛けながら、白痴のようににたにたと笑った。彼は明らかに海の呼声を聞いたのである。自分の無罪を立証し得る悦びよりも、只死損いの坂本を助ける為めに折角乗った此の船――しかも仲々仕事口のない此頃、望んでも又と得られない好地位を見捨てて――船を降りなければならないのが不満で仕様がなかった。第一、恨みこそあれ、此奴を助け出すなんてそんな義務が何処にある。この男は俺に殺されたことになっているんじゃないか。と彼は考えた。いや、刑事も言った通り確かに俺が殺したんだ。それに何だって今頃になって出て来てひょろひょろ此処に立ってやがるんだ。それが為吉を無性に怒らせた。いっその事予定通り此野郎が死んでいて呉れたら、そしたら? そしたら此儘此船で遠い懐しい海外へ行けるじゃないか――いや、待てよ、今だって決して遅くはないぞ。