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「したじき」のもんだい
「下じき」の問題
宮本 百合子
こんにちの文学への疑い
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,838 字 · 20 页
「脱出」という言葉を日本の文学の上に、ふたたびよむとき、わたしたちの心には、ある思いが湧く。一九三六年ごろ、イタリー映画に「脱出」という作品があった。ムッソリーニが、ヒトラーとの黙契によって北アフリカへ侵略を開始する前ごろの作品で、いまこまかなストーリイは思い出せないけれども、当時イタリーの人民生活を圧していた社会不安、生活の不安から、北アフリカへの軍事行動へ「脱出」するという、好戦の映画であった。イタリー大使館かどこかの好意による特別試写会で、それを見た。そして「脱出」という字は深く心に刻みこまれたのだった。
「日本脱出」は、考えてみれば、白鳥のなぐさみにつけられた題ばかりでなく、日本のきょうの文学に、むしろ、文学の若いジェネレーションに大きいかかわりをもっている。十数年にわたった過去の戦争の年々、人間性をさかむけにする破壊的な戦争強行の現実のなかで、一年一年死の予想を前にして成長しつつあった青年たちは、その中で絶望を支え、人間として生きる精神の拠りどころを何に求めただろう。
日本の治安維持法の非道さは、治安維持法そのものについて、それがあるということさえ公然と語れば、犯罪行為とした。