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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

交渉委員が小樽へ出発してから三日経って、ハガキが来た。阿部だった。

――誠意をもって会ってはくれない。朝七時に、門から玄関まで山があったり、池があったりする立派な邸宅を訪ねると、三十分も待たしてから、「店」へ行ったと云う。その店までは歩いて行って四五十分もかかる。そこで又二十分も待たして置いてから、ヌケヌケと、工場の方です、と云う。教えられた道を迷って、曲がりくねって、行き過ぎたりして、あげくの果てに工場が見付かる。見付かったって、何処からどう入って行って、どう云えば会えるか分らない。何人にも、何人にも頼んで、その度に百姓は冷汗を流す。そして云うことは同じ。ホテルに行ってる!

ホテルへ行けば商業会議所。泣きたかった。――晩の十一時過ぎにようやく家で会ってくれた。音もしない自動車に乗って、酔って帰ってきた。

「俺の命でもとる気か、一日中尾行をつけて!」と、最初から怒鳴りつけられた。

佐々爺はカラ駄目だ。――旦那様の云うことはお尤もで、へえ、ドン百姓ッてものは我儘で、無理ばかり云って、とか、まるでワケが分らない。

「小樽でグズグズしてると、警察へ突き出すぞ!」