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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

「そんなことまでやるのか! 畜生奴!」

皆は雨の中を帰って行った。出口で傘をさすと、急に雨の音がやかましくなった。どざだけをかぶって、肩を濡らして行くものもいた。雨に声を取られないように、大きな声でお互に話しながら帰って行った。

阿部、伴、健、荒川、その他小作人三人、組合員二人――これだけが、二日の間に三時間位しか寝らずに、「岸野小作争議団」結成のために馳けずり廻った。ビラを書いたり、謄写版の原紙を書いたり、刷ったりした。――健は始めての色々な経験で興奮していた。

人数が纒って来た。――今迄健が捨石のように廻って歩いていたのが、案外役に立った。

佐々爺や武田は、訪ねて行くと、訳の分らない議論を吹ッかけた。争議団のものが分らないで、つまると、

「そんなんで地主さ楯つけるか?」

と、嘲笑った。

武田が吉本管理人と相談し合って、小作人の切り崩しをやっている噂が入っていた。

荒川が鉄筆で頭をゴシゴシやりながら、

「こうなったら佐々爺とか武田、それに『のべ源』あんなものに気をつけなけア駄目だ。――何んしろ金でやってくるんだからな。」

やもめの勝が、芋と唐黍を子供に背負わせて、伴の家にやってきた。