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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

が、あの可愛い節は、一日でも早く健が昔の健にかえってくれるように、と祈っているときかせられて、健はがっかりした。

小作争議に入ってから、※の旦那は争議団に関係している小作には絶対に「掛売り」をしないと云った。結局それは、小作には品物を絶対に売ってくれない事と同じだった。それに今迄の、何年もの間の「掛」をたった今払ってもらおうと、おどかした。

「社会主義者どもの尻馬に乗って、日本の尊い遺風にキズをつける大不忠者!」

店先きで怒鳴りつけられた。

「在郷軍人の小作であって、若し争議に関係するものがあったら、陛下に対して申訳がないと思え! 軍人たるものの面汚しだ。」

同じことを「青年団」や「青年訓練所」のもの達にも云って歩いた。

「んでも※さん、食えないんだもの、どうも仕様無えしな……。お前さん達なら、それでええかも知れねしどもな。」

小作も※に云われると、矢張りマゴマゴした。然しどうにも食えなかったのだ。

健は然し、※がそんな「偉い」ことを云って歩いていながら、吉本管理人とちアんと結び合っていること――吉本と争議のことで、H町の料理屋で会ったことを知っていた。