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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

「七ちゃ、小樽行きまだか。」

「ん、もうだ。」

「もうか?」

又、七之助とも離れてしまわなければならないか、と思うと、健は淋しかった。――健の好きなキヌも札幌へ出て行っていた。製麻会社の女工に募集されて行ったのだった。然し、それが一年しないうちに、バアの女給をしているという噂になって、健の耳に戻ってきた。

……話が途切れると、泥濘を歩く足音だけが耳についた。田の水面が、暗い硝子板のように光ってみえた。

七之助はとりとめなく、色々な歌の端だけを、口笛で吹きながら歩いていた。七之助も何か考え事をしている。

「三吾の田、出が悪いな。」――七之助が蹲んで、茎をむしった。

「三吾も不幸ばかりだものよ。」

――三吾が自分のでもない泥炭地の田を、どうにか当り前にしようと、無理に、体を使った。そして二度「村役場」と「道庁」から表彰された。「農夫として、その勤強力行は範とするに足る」と云われた。岸野が道庁へ表彰方を申請したのだった。

その額椽を、天井裏のない煤けた家の中に掛けた日から、二タ月もしないうちに、三吾は寝がえりも出来ない程の神経痛にかかってしまった。痛みは寝ると夜明け迄続いた。