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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
ランプが動く度に、その影がユラユラと揺れた。誰かがランプの側を通ると、障子のサンで歪んだ黒い影が、大きく窓を横切った。ランプは始終ジイジイと音をさせて、油を吸い上げた。時々明るくなったかと思うと、吸取紙にでも吸われるように、すウと暗くなった。
「さっきな、阿部さんと伴さん来てたど。」
「ン――何んしに?」
「なア、兄ちゃ、犬ど狼どどっち強えんだ。――犬だな。」
「道路のごとでな。今年も村費が出ねんだとよ。」
「今年もか――何んのための村費道路だんだ。馬鹿にする。又秋、米ば運ぶに大した費用だ……。」
「兄ちゃ、犬の方強えでアな!」
「んで、どうするッて?」
「暇ば見て、小作人みんな出て直すより仕方が無えべど。――村に金無えんだから。」
「犬だなア、兄ちゃ……。」
「うるさいッ!」いきなり怒鳴りつけた。――「又小作いじめだ! 弱味につけ込んでやがるんだ。放ってけば、どうしたって困るのア小作だ。んだら、キット自分の費用でやり出すだろうッて、待ってやがったんだ。――村会議員なんて、皆地主ばかりだ。勝手なことばかりするんだ。」
S村で、以前、村役場に対して小作争議を起したことがあった。