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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

がブツブツこぼした。

「糞も面白ぐねえ。――早く出したら、どうだべ。」

「んだよ、んだよ、な、佐々爺。」――七之助が面白がった。

「飽き飽きするでえ!」

佐々爺は何時でも冷酒を、縁のかけた汁椀についで、「なんばん」の乾したのを噛り、噛り飲んだ。――それが一番の好物で、酔うと渋い案外透る声で、猥らな唄の所々だけを歌いながら、真直ぐな基線道路をフラフラ帰って行った。――佐々爺が寄ると、何処の家でも酒を出した。酒が生憎なかったりすると、佐々爺は子供のように、アリアリと失望を顔に表わして頼りなげに肩を振って帰って行った。

佐々爺は晩出たきり、朝迄帰らない時がある。酔払って、田の中に腐った棒杭のように埋ったきり眠っていた。探しに行ったものが揺り起しても、いい気に眠っていた。

「女郎の蒲団さもぐり込んだえんた顔してやがる!」

ところが、佐々爺は村一番の「政治通」だった。「東京朝日」「北海タイムス」を取っているものは、市街地をのぞくと、佐々爺だけで、浜口、田中、床次、鳩山などを、自分の隣りの人のことよりも、よく知っていた。今度床次がどうする、すると田中がこうする。――分った事のように云って歩く。