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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
朝から、遠くで銃声がしていた。飛行機が高く晴れ上った空に、爆音をたてて飛んだ。向きの工合で、翼が銀色にギラギラッと光った。小作人達は所々に立ち止って、まぶしそうに額に手をかざして、空を見上げていた。――子供は夢中だった。
健は由三にせがまれて、外へ出た。ジリ、ジリと暑かった。だまっていても、腋の下が気持悪くニヤニヤと汗ばんだ。由三は今ようやく出来かけている口笛を吹きながら、手にぶら下ったり、身体にからまって来たり、一人で燥いでいる。
市街地に入ると、郵便局の前に毛並のそろった軍隊の馬が、つながっていた。小さい鞄を腰にさげた兵士が頼信紙に何か書いていた。
「ええ馬だな。――俺アの馬ど比らべてみれでア!」
由三は馬の側を離れないで、前へ廻ったり、後へ廻ったり、蹲んで覗き込んだ。
「兄ちゃ、来年兵隊さ行けば、馬さ乗るんだべか。ええなア!」
街にはどの家にも宿割の紙が貼らさっていた。――市街地に出ると、銃を肩にかけ、胸のボタンを二つ程外して、帽子の下にハンカチをかぶった兵隊が三人、靴底の金具をジャリジャリさせて、ゆるい歩調でやってきた。
「S村って、これですか。