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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

」

次の昼頃、ラッパの音が聞えると、皆村道に出て行った。

お恵は髪を綺麗に結い直して、由三を連れて出た。畦道を縄飛びをする時のように、小刻みに跳躍しながら走った。

村を出て行くラッパの音は、皆を妙に興奮させた。それを聞いていると、何か胸が一杯になった。足並の揃ったザック、ザックという音と一緒に埃が立った。二日でも自分の家に泊った兵隊が通ると、手を振っている。

「あらあら、俺れアの兵隊さん!」

眼ざとい由三が見つけると、姉の手を引張った。

心持ちこっちへ顔を向けて――その顔が笑っている。お恵は耳まで真赤になった。そして手を挙げた。が、胸のところしかあがらない……。

ラッパの音が遠くなった。

そして行ってしまった。

皆は兵隊の残して行った革の匂いと埃の中に、何時迄も立ちどまって見送っていた。――

六

「あれは口の二つあるダニだよ」

「お茶ば飲みに来ないか。旭川の人も来るし、二三人寄るべから。」

前から伴や阿部のところに、四五人集ることのあるのは知っていた。健は始めてだった。

仕事が終ってから、藁屑のついた着物を別なのに着かえて出掛けた。由三は独り言を云いながら、壁へ手で犬や狐の恰好の影をうつして遊んでいた。