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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
「そうか、そうか! 頼む!」
上気した頬に、冷えた夜気が心よかった。――秋だった。歩きながら、彼は何か声を出したかった。
「待ってろ、待ってろ、俺だって!」
何度も独言した。
やもめの「勝」
道路を折れると、やもめの「勝」の家だった。長い雨風で、ボロボロに腐れ切ったヨロヨロの藁小屋で、風が強いと危いので、丸太二三本を家の後へ支え棒にしていた。――四五年前に夫に死なれてから、一人で稼いでいた。それから一年に一人ずつ、お互いに少しも顔の似ていない子供を三人生んだ。誰が父親か分らなかった。――色々な男がこっそり勝の家へやってきた。勝はそれで暮しを立てていた。――村の娘等は少し年頃になると、(例えばキヌなどのように)札幌、小樽へ出て行ってしまう。自分の母親達のように、泥まみれになって、割の悪い百姓仕事をし、年を老る気にはなれない。それで村の若い男は幾つになっても、仲々嫁は貰えなかった。と云って、又金を懐にしてワザワザH町まで出掛けて行くことの出来ないものは、日が暮れると、勝のところへやってきた。
ひょいと見ると、勝の家から誰か男が出てきた。出口の幅だけの光を身体の半面にうけて、それがこっちから見えた。