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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

始めの一週間は家へ帰っても、耳も頭もグヮングヮンして、身体がユキユキし、新聞一枚読めなかったものだ。――俺はこのまま馬鹿になってしまうんではないか、と思った。今は慣れた。

此前キヌと会った。キヌは岸野の経営している「ホテル」にいる。――岸野は雑穀、海産、肥料問屋、ホテル、××工場、精米株式会社を経営し、取引所会員、拓殖銀行其他の株主、商業会議所議員、市会議員をやっている。他に何千町歩という農場や牧場も持っているわけだ。

岸野が売り残して年を越したために、検査に落ちて、どうにもならなくなった鰊粕を、俺達の農場の方へ送り込んで寄こして、それを検査品と同じ値段で売っていることは、知っている筈だ。然しあの岸野にしたら、こんな事ものの数でもない。

キヌが云っていたが、ホテルには二十人近く女給がいる。――岸野が一週間に二度位廻って行くと、必ず自分の室から女給を呼ぶ。そして肩をもませた。皆は自分に順番のくるのをどうすることも出来ず、ただ待っているばかりだ。嫌なら出て行け、然し出て行ける「金の持っている」女なら、最初からそんな処に来る筈がない。みんな家の暮しのために、村から出てきた、云わば俺達と同じ仲間なのだ。