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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
――これだけが大切なことだ。みんなに、よろしく。
こんな意味のことが書かれていた。――健は飯を食いながら、丁寧にそれをもう一度読み直した。それから、それを持って阿部のところへ出掛けて行った。
八
「百姓嫌になった」
雨が二週間以上も続いた。
初め硝子の管のように太い雨が降った。雷が時々裂けるような音をたてた。――何時も薄暗い家の隅までが、雨明りで明るく見えた。
それが上らず、そのまま長雨になってしまった。皆が当にしていた雲の切れ目も無くなって、飽き飽きする程同じ調子で、三日も四日も続いた。五日目になると、小作はあわて出した。居ても立っても居られない。どこの家でも百姓が軒下に立って、グジョグジョに腐りかけて、水浸りになっている外を見ていた。
「何んて百姓って可哀相なもんだべな。」
佐々爺は東京新聞にも読み飽きてしまった。若いものの邪魔になりながら、ゴロゴロしていた。――「可哀相に、手も足も出ない。――はがゆくって!」
稲が実を結びかけていた大切な時を、雨は二十日間降ってしまった。所々ボツンボツンと散らばっている小作の家は、置き捨てにされた塵芥箱のように意気地なく――気抜けしてしまった。