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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

「君のとこ幾ぼとれた。」――健は冷たく、別なことを云った。

「ようやく半作よ。」

「小作料納めたら、どうなる?」

「ン――。食うもの無くなるよ。んでも、そこばさ、何んとかウマクやって行くことば考えたらッて思うんだ。」

吉本にでも頼まれて来たな、と健は思った。

健は皮肉に云った。――「伴さんがこんな事云ってたが、本当かな。来年の春、H町の議員選挙で岸野さんが出るから、地盤ば荒されないように、今年だけは小作人ば誤魔化した方がええッて蛇吉が云ってるッて、ええ? 俺達食うか、食えないことば、そんなことでどうにも都合するんだナ!」

「…………」武田はだまった。「まさか。」

武田は話を別な方にそらして、帰って行った。撥の悪さをかくすように、暗い表で、

「明日も天気だ。」

と云うのが聞えた。

「ああいうのば、犬ッて云うんだ。」――畜生犬!

――他の農場では小作料を下げたとか、下げるとか、そんな噂がすぐ岸野農場にも入ってきて、その度に皆をアヤフヤに動かした。

常任の交渉委員、伴、佐々爺、武田が吉本管理人のところへ何度も足を使った。

「蛇吉の野郎、こんなに事情が分ってて、それで一から十、岸野の肩ば持ちやがるんだ。