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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

――今中さはさまって、野郎ジタバタしてる!」

帰りに健のところへ寄ると、佐々爺、武田の前で、伴がズバズバ云った。

もう岸野の返事だけだった。それだけで決まる。――それを待てばよかった。

そうだ、十年も経っている

夜が長くなった。

土間の台所で、手しゃくで飲む水が歯にしみた。長い間の無理な仕事で、小作の板のようになった腰が、今度はズキズキと痛んだ。母親は由三に銭をくれると云っては、嫌がる由三をだまして腰をもませた。――夜は静かだった。馬鈴薯を炉の灰の中に埋めたり、塩煮にしたりして、それを食いながら、腹這いになって色々な話をした。由三も皆の中に入って、眼だけをパッチリ見張りながら、頬杖をして話を聞いた。好きだった。――母親は昔のことをよく覚えていた。

床に入っても、身体が痛んで寝つけなかった。暁方まで何度も寝がえりを打った。――過ぎ去ってしまった生涯が思いかえされる。――こんな「北海道」に住むとは思わなかった。一働きをして、金を拵えたら、内地へもどって、安楽に暮らそう、まア、二三年もいて――皆そう思って、津軽海峡を渡ってきた。だが、もう十年も経っている。