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ふしぎなるくうかんだんそう
不思議なる空間断層
海野 十三
「ぷろふいる」1935(昭和10)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,651 字 · 30 页
カーテンの色は、生憎その鏡のある場所が小暗いためよくは判らなかったが、深い紫のように見えた。もちろんその鏡の上には、こっちの部屋の調度などがそのまま反対に映っていた。乃公は部屋に入ると、第一番につかつかとその鏡の前まで進み、自分の顔をみるのが楽しみだった。鏡の位置が奥まって横向きになっていたため、鏡の前へ立たないと自分の顔は見えなかった。――乃公はそこでいつも勇ましい自分の顔を惚れ惚れと見つめるのだった。ヴィクトル・エマヌエル第一世はこんな顔をしていたように思うなどと、私は反身になった。鏡の中の乃公の姿も、得意そうに、反身になったことである。
鏡の前で、さんざん睨めっこや、変な表情や滑稽な身ぶりをして楽しんでいると、背後に突然人声がしたのだった。
「お飲みものは如何さまで……」
それは若い男の声だった。
ふりかえってみると、いつの間にか卓子の上に、銀の盆にのった洋酒の壜と盃とが並んでいた。そして入口のドーアを背にして、いま声を出したのであろう、立派な顔をしたスポーツマンらしい青年が立っている。いやそれだけではない、彼の青年とピッタリ寄りそって、一人の若い女が立っているのだった。