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ちゅうよう

中庸

坂口 安吾

「群像 第八巻第六号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,104 字 · 33 页

青空文庫

どこだ」

待ってましたと羽生が彼を迎えて、

「村長はまことに不謹慎だ。お前さんが馬を売れば、鹿の頭がなくなってよろしかろうと云っている」

「ヤ。そのことで来たのだが、今日の費用は俺が馬を売って調達するとは、いったい村長は何を根拠にそんな阿呆なことを云うとるのか。俺がいつそのようなことを云うたか。村長は俺の馬がそんなに憎いのか。俺の馬を売らせたいのか」

羽生は当てが外れて狼狽した。

「いや、馬の話は今日のことではない。今日の費用は俺が自腹を切ってもよい。その話はまた別だから、まア、こッちへ来なさい」

羽生は根作の手をひいて、誰も居ない方へ急いで連れ去った。

余はマリ子の姿をさがした。故大佐と余とは陸海軍の相違があるから、たまたま県人会などの席で顔を合せた程度で、深い交りというものはなかった。しかし、故人の遺族が本日の如くに難儀しているのを同じ軍人として見過すわけにはゆかない。落付く当がなければ余の家の一室を提供してもよいと思った。

マリ子は人々の好奇の的となることも、同情されることも気に入らなかったので、学校の周辺から姿をくらましていた。

山際の禅寺に避難していたのである。