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ちゅうよう
中庸
「群像 第八巻第六号」1953(昭和28)年6月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,104 字 · 33 页
「心やすだてに無断で作業をはじめて相済まない。日暮れまでに床を張りたいと思い立ったのでね」
「誰にたのまれてですか」
「たのまれたわけではないが、あなたがたばこと同じように喜んで受けてくれると思ったのでね」
「たばこと同じにですって! たばこと何が」
マリ子の見幕がすさまじいので、余は言葉を失った。マリ子は土間の中をぐるぐる歩きながら云った。
「私たちはたたみなんて、もう捨てたんです。憎んでいます。たたみに甘えるぐらいなら、恥辱に生きられやしない。この病人をたたみへのせるぐらいなら、一思いに締め殺して安らかにさせてやるわ。私のおなかには恥だらけの子供がいるんです。先には子供をおろしたけど、もう、おろさない。大威張りで父なし子を生んでやるわ。土と藁の中へ生みつけてやるわよ」
暫時のうちにマリ子の頬はげっそり落ちていた。目もくぼんで険しかった。余は跫音を忍ばせて去ったのである。
校舎の蔭に羽生が身をひそめて聞いていた。余の去るを見て、彼も車をひいて従った。
羽生は余にささやいた。
「女はあんなものですよ。一皮むけば、どの女もあんなものです」
余は思わずかっとして叫んだ。