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ちゅうしゆうき

中支遊記

上村 松園

「画房随筆」錦城出版社、1942(昭和17)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,238 字 · 13 页

青空文庫

上海にて

仲秋まる一ヵ月の旅であった。六十有余年のこの年まで十日以上にわたる旅行はしたことのない私にとって、よく思いたったものと思う。流石にまだ船に乗っているような疲れが身体の底に残っている。頭を掠める旅の印象を追っていると、なお支那に遊んでいるのか、京都に帰っているのか錯綜として、不思議な気持を払いきれない。

昨日の新聞に米船ハリソン号を浅瀬に追いつめて拿捕に協力したと輝かしい偉勲を伝えられている長崎丸、私が長崎から乗った往路は多分その長崎丸であったろう。十月二十九日の晩のことで、一行は京都を出発する時から、華中鉄道副総裁の田さんの夫人始め三谷十糸子など、内地をそのまま支那に移したような身のまわりであった。衣服も改まるわけでなく、食べものもずっとゆく先々で京都にいる時とあまり変らぬ日本料理がいただけたし、身体にも気持にも大した変化もなく旅を続けることが出来た。もっともおよばれもあり、いわゆる本場の豪華な支那料理を出される機会は多かったが、つねづね小食な私はほんの形ばかり箸をつけるばかりで、そのため迷惑を感じるようなこともなかった。天気にも非常に恵まれ蘇州で少し降られただけである。