轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

なかむらつねしのついおく

中村彝氏の追憶

寺田 寅彦

「木星」1925(大正14)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,911 字 · 4 页

青空文庫

右の手の方はすらすらと無事に出来たが、計算尺を持った左の手がどうしても思うようにならなくて、これに大分時間をかけたようであった。

いつであったか、その日の仕事を切り上げて、田中舘先生の門を出て帰っていく中村氏に偶然出逢った事がある。その時の氏の姿が今ありあり思い出される。洋服の上に汚れた白の上っぱりを着たままで、肩から絵具箱をかけ、片手にも画架か何かを持っていた。そして如何にも疲れ切って大儀なからだを無理に元気を出して、捨鉢に歩いてでもいるような気がした。何だかいたいたしいような心地がした。黒の中折を冠った下から黒い髪の毛が両耳の上に少しかぶさっていたように思う。こんな記憶が今かなりはっきり浮んで来るが、これが果して事実であったのか、あるいは覚え違いであるかも分らない。

(大正十四年六月『木星』)