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『ケプロン・くろだのこうそう』について
中谷宇吉郎集 第八巻
中谷 宇吉郎
中谷宇吉郎『中谷宇吉郎集 第八巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:『ケプロン・黒田の構想』について、桂浜、北国の春、金鱗湖、高度八十マイル、写真と暮らした三十年、寅彦の遺跡、南極・北極・熱帯の雪、百科事典美談、北海道開発に消えた八百億円、母性愛の蟹、娘の結婚、雪の化石2、六三制を活かす道、ピーター・パン。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 85,890 字 · 178 页
そうしたら奥さんが、しばらく考えていて、決然とX君に言った。「貴方それをお買いなさい。私が毎月十円ずつ上げるから、貴方もお小遣の中から十円出して、買うことにしようじゃありませんか」と言った、というのであるから、まことに美しい話である。これは翌日学校で、X君自身が話してくれたことであるから、真実の話にちがいない。よほど嬉しかったのであろう。
それで芽出度く『大英百科事典』は、X家の茶の間に、燦然と背の金文字を輝やかすことになった。その頃の大学教授は、丸善に信用があったので、契約さえすれば、本は揃えてすぐ届けてくれたのである。
これはたしか夏休みの頃だったように憶えている。それから読書の秋が来て、札幌の早い冬が、間近にせまって来た。十月の末くらいか、ある晩X家を訪れた。子供たちはもう寝かしつけて、X君夫妻だけ、茶の間の電灯の下に坐っていた。長火鉢にはかんかんと炭火がおこっていて、鉄瓶の湯がたぎっている。X夫人は毛糸で何か編んでいたらしく、編みかけの毛糸の玉がころがっていた。X君は、食事を済ませたあとの小さいちゃぶ台の上に、『百科事典』を一冊開いて、きちんと坐っていた。