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くぼたべいさいくんのおもいで

久保田米斎君の思い出

岡本 綺堂

「伝記」1937(昭和12)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,435 字 · 17 页

青空文庫

とにかくそこで御目にかかったのが最初でした。それ以来三十五年ばかりになるわけです。長い間だから劇評などを書かれたのもあるかも知れませんが、一人のものは今記憶にない。合評会には出ておいででした。主として扮装とか何とかいう方の批評をされたようです。

何時頃でしたか、米斎君が私のうちへおいでなすって、今そこで掘出し物をしました、といわれたことがある。代官山の駅を下りて此方へ来る途中の古道具屋で、私も湯へ行ったり、髪結床へ行ったりして始終その前を通るのですが、そこで買ったといって見せられたのが、青磁まがいのような壺みたいなものです。雑巾を貸してもらいたい、といって頻に拭いておられたが、やっぱりそうです、という。全体いくらで御買いになったんですかと聞いたら、値段をいってしまうと仕方がないが、実は二十五銭で買いました、これで二十円、少くとも十四、五円のものでしょう、といわれたには驚いた。私は毎日その前を通っているんだけれども、ちっとも気がつかない。米斎君はヒョイと通りがかりに見ただけで、直ぐわかったらしいのです。どうも余所から来て掘出し物をされちゃ困りますね、といって笑いましたが、――中にはそう掘出し物ばかりもなかったかも知れない。