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くがつのあるひ
九月の或る日
宮本 百合子
「時事新報」1926(大正15)年9月21、22、25、26日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,130 字 · 11 页
そこにあの静かな少し淋しいようなユーモアが生じる。網野さんの芸術には勿論他に種々の要素があるとしても、この点はかなり主な独自性の一つだと思う。まあ例えば地味な色糸で繍った玉繍いのように粒一つが入念な筆致と、そのユーモアとが結びついて澄んだ心の境地を示している場合、小さい作品でも味が深い。同じ集の中の「海」などという沈んだちっとも上皮のきらつかない美がある。
四
暗くなってから、私共三人は百花園を出た。百花園の末枯れた蓮池の畔を歩いていた頃から大分空模様が怪しくなり、蝉の鳴く、秋草の戦ぐ夕焼空で夏の末らしい遠雷がしていた。帰りは白鬚から蒸気船で吾妻橋まで戻る積りで、暗い混雑した向島の堤を行った。家に帰る沢山の空馬力、自転車、労働者が照明の不充分な塵っぽい堤を陸続、互に先を越そうとしながらせっかちに通る。白鬚の渡場への下り口にさしかかると、四辺の光景は強烈に廃頽的になった。石ころ道の片側にはぎっしり曖昧な食物店などが引歪んだ屋体を並べている。前は河につづく一面の沼だ。黒い不潔極まる水面から黒い四角な箱みたいな工場が浮島のように見える。