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くだん
九段
「別冊文藝春秋 第二〇号」1951(昭和26)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,870 字 · 20 页
唐草模様のような手のこんだものだが、しかしスッキリとしていてそう品の悪いものではない。そろいのユカタと云ったって、花柳地の姐さんがお揃いで着るものだから、イヤ味やヤボなところはない。姐さんのユカタだから模様はコッテリしているが、万事コッテリの関西育ちの大山の目には、いかにも気のきいた、イキなユカタに見えた。
大山はビックリして、腕を通した片袖を顔の近くへひきよせ、やがてその裏をいそいでひッくり返して調べた。
あまりのことに、彼は言うべき言葉を失ったのである。その模様には一目ではそれと分らぬように、いかにも粋な工夫をこらして、くだん、とか、九段という文字があしらッてあるのだ。
彼はことごとく驚いた。名人位にくらべれば九段などはさしたるものではないようだが、さて九段になれば、九段は九段、人々は祝福し、彼はそれに満足であった。しかしこんな細いところにマゴコロをこめて、九段昇段を祝ってくれる旅館があろうなどと想像していなかった。誰がそのようなマゴコロを想像しうるであろうか。棋士を愛すること世の常ではない旅館なればこそであり、また好みの素ばらしさ、粋な思いつきは、天下の名士があげて集る第一流の旅館だけのことはある。