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くだん

九段

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第二〇号」1951(昭和26)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,870 字 · 20 页

青空文庫

若い大山の胸は感謝の念でいッぱいになり、目がしらがあつくなりそうだった。

彼はホッと顔をあげて、思わずあからみながら、

「これ、ぼくのために、わざわざ、こしらえて下さッたんですねえ。光栄の至りです」

係りの女中は何もしらないから、いそいで自分もユカタの模様をしらべて、ああ、そうか、それじゃア棋士の好きなオカミサンが大山新九段を祝って、かねて注文しておいたユカタだったのかと思った。偶然ながら、一番手近かに置いてあったのを持ってきて、ちょうど良かったと思ったのである。

「そうですわね。オカミサンがこしらえておおきになったんですわね。ずいぶん気のつくオカミですから」

「光栄です」

小男の大山は自分の身体が二ツもはいりそうなユカタの中へ、満足に上気して、いそいで襟をかきあわせた。全身にあふれる幸福を一ツも逃すことなく全部包んでしまいたいように、アゴをすッぽり襟でつつんだ。アゴの上にユカタの襟がでていてもまだその裾をひきずりそうであったが、彼はそんなことが苦にならなかったのである。彼はモミヂにいる間、その大きなユカタにつつまれてバタ/\足をからませても満足していた。