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ちちとみつのながれるち

乳と蜜の流れる地

笠 信太郎

「あまカラ 新年号 第一三七号」甘辛社、1963(昭和38)年1月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,472 字 · 7 页

青空文庫

ロザンヌでも、ニュー・シャーテルでも、ルツェルンでも、トゥーンでも、そのおぼえがある。どこでも、小さなサカナが泳いでいて、それが岸近くに寄ってくる。大きいのは、時には落ち鮎ぐらいのが、チラッと姿を見せることがあるし、たいていは人指しゆびくらいの魚が、岸近くを群れを作って泳いでいる。それはワカサギのようでもあるが、実はそれが何であるかをその都度つきとめることを忘れてきた。ところで水の中をのぞき込む私は、ああいう山国でサカナに渇えていたせいもあろうが、あれを掬って、塩焼にするか、それとも甘露煮にしてもうまいだろうに、といつでも考えた。ところがその土地の人は、こんなサカナには一向に見むきもしないのである。日本だったら、ハエ釣の名人などは、釣というほうからいっても、見のがしはしないだろうに、などと思ったことである。

そんな思いをするにつけても、私の食慾が、青い水の色とつながっていることをいよいよ自ら信ずるようになった。果ては、これは自分ばかりではなくて、サカナをたくさん食う日本人――日本は漁獲量ではかくれもなき世界第一の国だ――その日本人の食慾につきまとう色も、私と同じであるに違いないと、いつの間にか信じ込んでしまっているようである。