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ちぶさ

乳房

宮本 百合子

「中央公論」1935(昭和10)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,932 字 · 56 页

青空文庫

東交はスローガンとしてファッショ打倒をかかげているが、俺はそのスローガンに反対だ。東交の規約には、政党、政治に関係なく全従業員の経済的利益を守るとある。それだのに、ファッショ打倒なんかというスローガンをあげることは規約を無視している。だから、

「その点がはっきりしねえうちは、俺あもう組合費は出さんつもりだ」

「チャッカリしすぎてるぞ!」

「下田は何だヨ!」

それは、東交内で有名なダラ幹で新聞にさえその御用的立場はすっぱぬかれていた。

「ファッショのヤタイ店、ひっこめ!」

「議長! 議場整理!」

「みなさん、静かに願います。順々に発言して下さい!」

議長は形式的にそう云ったぎりで、支部長の山岸はその間ずっと片手をポケットにつっこんだなり、小机の端に頬杖をつき、おきているのか居睡りしているのか、瞼の重い目をつぶって場内を混乱にまかせている風である。散々ごやごやしぬいて肝心の討論の中心ははぐらかされ、全体の気分がだれて散漫になった時分、議長はさも潮どきという風に色の悪い顔をのび上らせ、

「じゃア、もう時間が来ましたから」

と決議を求めた。柳島車庫は、何処かがストに立ちさえすれば、直ちに罷業に入るという奇妙な決定をしたのであった。