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ちぶさ

乳房

宮本 百合子

「中央公論」1935(昭和10)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,932 字 · 56 页

青空文庫

一人は井上製鞣へ出ていた。そのおかみさんの云い分はこうであった。

「そりゃこんな暮しをしていたって、つき合いってものはありますからね、たまにゃちょいとしたうちへだって行かなけりゃなんないやね。そんな時、行坊をつれてくってと、お前さん、人前ってものもあるのにあの子ったら大きな声して『おっかちゃん、ここんちブルジョアだね、だからてきだね』って、こう来るんだからね。あたしゃまったく、赤面しちゃうのさ」

そんな話のあったのも近頃のことではなかった。ここが、あっちこっちにあった無産者託児所として、統一された活動に入ったばかりの頃、現れた偏向なのであった。

赤坊のぐずつく声をききつけてひろ子が二階へあがって行った。

お花さんのちい坊が、十ヵ月近くたつのに一向発育のよくない小さい顔をしかめて、寝苦しそうに半泣きの声をしぼって頭をふっている。ひろ子はおしめを代えた。消化不良の便が出ていた。母乳のほかに山羊の乳をのませろと医者に言われて、お花さんは自分の稼ぎのつづく日にはそれを飲まし、ここへあずけて「よいとまけ」に出ているのであった。

タア坊のおしめを代えてやっていると、窓の下で、