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ちぶさ
乳房
宮本 百合子
「中央公論」1935(昭和10)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,932 字 · 56 页
「いいかい、ここ、あたい達のコーバ!」
甲高い、勝気そうな袖子の声がした。ひろ子がちい坊の寝台を二階の手すり間ぢかまで引っぱり出して日光浴をさせながら見下していると、入口の前の空地の隅に、こわれたブランコがある、その切れた繩の先を握って袖子が何かを手繰るような手つきでそれをふっている。二郎が、茶の毛糸と青毛糸とをいかにも間に合わせに継いで寸法をのばしたジャケツを着、ゴム長をふんばって、わきからそれを眺めている。
やや暫く二郎はそうやって眺め、袖子は、目をつっつきそうに伸びすぎて剽悍に見える黒いオカッパの下から、時々真面目くさった視線で二郎の方を見ながら、運動をつづけているのであったが、やがて二郎が、ぶっきら棒に、
「ヤーイ、名なしの工場なんて、ないや」
と云った。袖子は睨むように二郎を見た。そして思案していたが、やがて動かしている手はとめず、
「――ブランコ工場だヨ!」
イーというように返事している。
見下していたひろ子は、声は立てずに大きな口をあけて笑った。
「ここ、キカイだよ!」
矢張り生真面目な顔で、袖子は、ブランコの柱のひびわれた木目を、あいている左手の指先で押しつけるようにして二郎に示している。