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ちぶさ
乳房
宮本 百合子
「中央公論」1935(昭和10)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,932 字 · 56 页
ぎごちない恰好で膝までつかって何とかしようと、板を落しても落しても、二郎は声も出さず力みこんで骨を折っている。家でも、託児所でも、玩具らしい玩具を持たない二郎の努力がそこにあるのであった。ひろ子はそれをただ見下してはいられない心持になって来た。タミノはどうしたのだろう。そう思いながら下りて来て、ひろ子はおやと思った。臼井がいつの間にか来ている。そしてあっち向きに、タミノと向いあって柱によりかかっていた。ひろ子の跫音で、タミノが顔をあげると、臼井はこっちは振りかえらないまま、いそがず、しかし十分ひろ子を意識した素ぶりで何か前にあったものを畳んで紺絣の内懐へしまった。
ひろ子は二人のいる四畳半の方へ行こうとしたのをやめた。そしてありあわせの下駄をはいて外へ出た。
五
夜みんな子供をかえして静かになると、タミノとひろ子とは、工夫してなるたけ人目をひくように、字の大小、ふちどりなどに心を配りながら、大きいのや小さい四角い伝単形やらのガリ版をきった。
託児所の経済は、市電応援以来非常にわるくなった。ひろ子らは、これまでのように、定って毎日来る子供ばかりを預るだけでなく、急用で出かける母親にも便宜なように、どんな臨時でもおやつ代だけで預ること、そして託児所の仕事をもっと大衆化することを決定した。