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かんぱい

乾杯

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,788 字 · 18 页

青空文庫

万事しとやかで、そして、何事にもよく気がつかれますよ。お母上の従兄筋にあたる加納家の末の娘さんですから、御当家とも深い縁故がおありになります。その故でもありますまいが、お母上には、まるで御自分の娘のように、お気に入っていられますようでございますね。」

そんなことを、山川正太郎に向って言う塚本老人の真意は、まだ明かでありませんでした。だが、そこにも、なにか陰謀めいたものを、山川正太郎は感ずるのでした。

山川正太郎はじっと加納春子の顔を見て、言いました。

「あなたは、どういうことになろうと、あの塚本さんを、恐れはしないでしょうね。」

「これまでも、あまり気にかけたことはありませんし、今後とて、その通りだろうと思います。」

なにか怪訝そうに、彼女は彼の方を見つめました。

「それでは、言いましょう。信一君をこちらへ連れてきて、この家に住みませんか。」

その問いが、実は返答でありました。

彼女の子の信一は、鎌倉にある山川家の別荘にいるのでした。はじめは彼女も、そちらにいましたが、彼女の若い叔父さんたち一家が戦災にあって、その別荘に住むようになってから、東京の山川家に事ある毎に、彼女は手伝いに出て来ました。