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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
書き終った長篇小説は、それとして伸子の人生を一歩前進させた。けれども、その長篇をかき終ったことで到達した境地からは、伸子は、また歩みぬけてゆくために必要な活力は、二人の日々に動いていないことを、伸子はぼんやりと、感じはじめていた。そして、その不安は段々ごまかしにくくなっている。素子の発案で、日々に何かの変化があっても、それは同じ平面上での、あれ、これの変化にすぎない。素子が何か気のかわることを計画するとき、同じ平面で動いているにすぎないという感じは、かえって伸子ののどもとに苦しくこみあげた。
要するに夏になれば鎌倉に粗末な家でもかりて、そっちへ仕事をしにゆくとか、ナジモ※(濁点付き片仮名「ワ」、1-7-82)の「椿姫」を見のがさず、日本橋でうまい鰆の白味噌づけを買い、はしらとわさびの小皿と並べて食卓を賑わすとか。素子はそういうことによく気がつき、それをやかましくいい、又たのしみ、生活の価値の幾分を見出しているようであった。素子が細々とそういう細目で毎日をみたしてゆくとき、伸子は受け身にそれに応じながら、素子は、こんなことで生活が充実するように思っているのではないか、と不安になって来るのであった。