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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
それに、素子は、女のひとにたいする自分の感情のかたよりを枢軸に自分の人生が動いているように思っている。しかし、そのことについても疑問があった。日常生活での素子は、伸子より遙かに常識にたけていた。世間なみの日々のさしくりを忘れず、二人の収入から集金貯金をかけているのも素子であった。義理がたく、律気であり、人のつきあいに真情を大事にした。それらは、どれ一つをとっても最も普通であった。女のひとに対してもつ感情のうちの、分量としては小さい特殊さを、素子は男への反撥のつよさで誇大して、自分からそこにはまりこんでいるのではないだろうか。
伸子とは二つ三つしか年上でない素子の二十前後の時代は「青鞜」の末期であった。女子大学の生徒だの、文学愛好の若い女のひとたちの間に、マントを着てセルの袴をはく風俗がはやった。とともに煙草をのんだり酒をのんだりすることに女性の解放を示そうとした気風があった。二つ三つのちがいではあったが、そのころまだ少女期にいた伸子は、おどろきに目を大きくして、男のように吉という字のつくペンネームで有名であった「青鞜」の仲間の一人の、セルの袴にマントを羽織った背の高い姿を眺めた。