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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

伸子はニスのはげかかっているその上にかけた。こういう風にして、母がかけていて、そのわきに娘の伸子が立っていたことがよくあった。夜中に母が何か父と衝突して、涙をこぼしながら下りて来てここにかけていたとき。また、もっと小さかった伸子が、錦輝館の泰西大名画という映画につれて行って貰おうとして、ともかく身じまいをはじめて母の気がきまるのを、辛抱しながらこの椅子にかけている母の横に立って待っていたとき。いま伸子は、ふと一つのことを想い出した。

何年か前、知人の細君で日野さよ子というアメリカ帰りの女が、佐々の家へ出入りしたことがあった。どういうわけだったか良人は日本にのこっていて、細君だけがアメリカへ行き料理の勉強をして帰って来た。小柄な、いくらか蓮葉で愛嬌のいいそのひとが、動坂のうちへも来て料理を教えてくれるということになった。もうその時伸子は佃と結婚していて、赤坂の方に住んでいた。あるとき、来てみると、母がしきりに父をからかって、

「ほんとに、どうなすったのかと思ったよ。お父様ったら、今出たばかりのお風呂に、また飛びこみなさるんだもの」

伸子にそういった。