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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

そして、

「俺は、寺島のことについては、お前のこころもちのすむように、なんでもいうとおりにして来てやっている筈だ」

伸子のところから父の顔は見えなかった。けれども泰造が煖炉前の天井についている灯を見つめながら、複雑な心もちでしんみりとそれをいっている様子はまざまざとわかった。

「世間の亭主はどんなもんか、少しはくらべて見るがいいんだ」

「恩にきせるなんて――卑怯ですよ」

「俺が卑怯かどうか、伸子にきいてみろ」

「ほら、とうとうあなたの、伸子にきいてみろ、が出た!」

多計代は涙をうかべながら、かちほこった、刺すような笑いかたをした。

「ひとがいるといつだってそうなんだ、あなたってかたは。――虚勢をはって――」

「いいかげんにしろ!」

ねていた泰造が長椅子の上でおき上った。

「自分の娘をひとっていう奴がどこにあるものか。――いったいなにが不平でそう悪態をつきたいんだ。何不自由なく食わせてやっているくせに。――したいだけの我ままだってしているじゃないか」

多計代の頬を涙が光ってころがり落ちた。

「何不自由なく食べているのが、そんなにお気にいらないんなら、私はどうでもしましょう。