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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
伸子は少女としての感情が育ってから、いつも自分の母というひとは、よそのうちのおかあさんといわれている母親たちと、どっかひどくちがった感情で娘である自分にたいしているように感じることが多かった。伸子は、母にたいするというよりも、年かさで命令権をもっている女に向って、一人の若い女が正面から向いあって立ち上った時の感情を経験した。
いま、母の結婚生活がはじまったころの話を思い出すにつれて、伸子には、これまではっきりつかめていなかった母の女としての情熱の矛盾が、しみじみわかった。大柄な美しい多計代のからだにはもって生れた様々な情熱の可能が、可能のままかくされていて、子供が次々に生れて母になってゆくという現実と、心のどこかにはいつもほかの生活への空想とあこがれがうずいていることとは、くいちがったままで多計代の生活を貫いて来ている。
十六ぐらいの娘であった伸子に、どうしてそんな女の心のあやがわかろう。多計代の感情のうちに、恋愛のこころから結婚をとおって、母となるおどろきとよろこびに目ざまされた母性のふっくりした展開はもたらされていない。それを、多計代として気づいたことがあるだろうか。