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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
文句を思い出すことは出来なかった。けれども、たしかにそれはあった。
素子があやしんで注目するほど、伸子は念入りに皿のおはぎをいくつにもちぎりながら、それを食べるのを忘れていた。武島裕吉の生きかた、つまりはその死にかたにも賛成していない伸子は、いまの自分の心にその武島裕吉が連想されたことがいやであった。
十五
「ぶこちゃん……動坂へ行く約束してあるんだろう」
「約束ってほどでもないけれど……」
日曜日の朝、素子がいいだした。
「行っといでよ」
「ええ……でも、行ったって……」
「ピアノでも弾いて来た方がいいんだ」
素子がそういうには理由もあった。土曜日のロシア語の稽古に浅原蕗子が来たとき、素子は最近のニュースという工合にして、前日来た三人のぼうぼう頭の青年たちの話をした。すると蕗子が、いつも変らないふっくりとして沈着な表情で、
「どちらがお会いになりましたの?」
と、二人を見くらべた。
「それゃ、もちろんぶこちゃんですよ。私なんぞは無名の士じゃありませんか」
「お金おやりになりました?」
「やるいわれなんかあるもんか! さすがのぶこちゃんも堂々とことわりましたよ」