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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「お父様、まだずっとあっち?」

「落着いて暮してみるといいね。駅を下りると、空気が全くちがう。第一、朝の心持がすてきですよ。この頃はヴェランダで、はだか日光浴さ」

「お客様なし?」

「絶対おことわりだよ。さもなけれゃ、行っている意味がないもの。あっちから、通っていると汽車の時間があるから、切り上げるのにもかえっていい工合ですよ。たいてい七時すぎにはつくからね」

食事のとき伸子は、半分ふざけて、

「そういえば、お父様、前崎のモーターどうして?」

ときいた。

「もういいの? 騒動なさらない?」

「うん、大丈夫だ」

泰造は、よっぽどこりたと見えて真面目に答えた。

「ポンプやの計算ちがいで、結局二馬力のにして、やっとよくなった。はじめっから俺はそれでなけれゃあぶないといっていたのに――」

事務所へかえる前、泰造は丸ビルへよって髭剃りあとへつける化粧水を買った。

「前崎でいるようなものないかしら。――わたし、これから動坂へ行くから、もしあったら届けてよ」

「何にもいりませんよ」

泰造は例の、踵の音の高く響く足どりで横浜植木の店のなかをひとまわりした。あてにして見に入ったものがないらしかった。