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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「いないの?」

しばらく耳をすましてもシンとしているので、伸子は足もとに気をつけて、いくぶん前下り気味の工合のわるい階子を二三段下りて、下をのぞいた。半地下室には、湿気どめのために真黒くラック塗料をぬられた太い角柱が幾本も立っている。その柱と柱の間の東よりの窓下に保の勉強場が出来ていた。製図板をのせる脚高台に、大形の製図板をのせ、その前に木づくりの大きいひじかけ椅子があった。本やノートがすこしその製図板の上にちらばっている。半地下室の東と西とにも半分だけ地面に出た窓がしきってあって、そこから光線がさしこんでいる。けれども、四方の壁が柱と同じようにやっぱり真黒い塗料でぬりこめられているから、その明るさなどは吸収されて、机のところに、単調で鈍い庇合いの明るみが落ちているばかりであった。たしかに、その半地下室の空気は、ひやりとした。でも――なぜさ。伸子は、黒く光る柱の下にたたずんで、ほんとに声に出してそうひとりごとした。なぜさ! 涼しい、といったって、夏のさかんな季節のおもしろさ、その自然の美しさや光線の横溢を、こういう半地下室のひやりとした朦朧さととりかえている保のこころもちを、伸子は解せなかった。