轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

でも私の場合はちがいます」

そして絢子は、その言葉で伸子の顔をぶちでもするように、

「相川良之介さんは、私に接吻したんです」

といった。

「あのおうちの二階からおりようとしていたとき、階子段のところで……」

伸子は、ぞっとした。そして、黙った。ペンをもつ手がふるえ、涎がたれるようになったと自分について書いている相川良之介を思った。二階へ急にかけ上って来た夫人が、となりの部屋の畳につっぷして、お父さんが死んでおしまいになったのじゃないかと思って、と弾む息をころしていた情景を思いおこした。その家の二階を下りるとき――……

「そういうことがあっても、あの女人というのは、私でないとおっしゃいますの?」

二人が腰かけている小部屋の出窓の前の樫の梢でミーンミンミン、ミーンミンミンと単調にやかましく蝉が鳴きたて、生垣ごしの隣家の草むらに大輪の向日葵が黄色く咲いている。草木の上には夏の日光が燃えきらめいている。そのやきつく風景を目に見ながら伸子は、寒いような心持だった。もし万一、絢子のいうようなことがあったとすれば、それは、酸鼻だと思った。相川良之介は、刃のこぼれた細身の劒を杖にして、その日その日をよろばい生きている自分の哀れさを、恋愛に飢え、金銭にかつえ、名声にかわいて汗くさくなっている絢子の上にも感じたのかもしれなかった。