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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

伸子は、わかりにくいことをわかって貰おうとして、困り困り素子に自分のその心持を説明した。

「だからね、わたしは、これをすっかりみのらしてみたいの。わかる? 中絶したくないの。音楽のように、しまいまできいてみたいの」

「――まあ、それもいいだろうさ、わたしの方だって、なにもきょうあすにきまるわけじゃなし……」

素子は、そういう伸子の心にはあまりさわらないようにし、さわらないことではやく、伸子がいわゆるみのった状態におかれることを期待している風で、自分の旅行のための用事で外出しつづけた。巣についた牝鶏のように、伸子は家にこもりつづけた。

そういうある日の午後、縁側で竹の葉の色が青く映っている金魚の鉢を眺めていた伸子は、うしろで、

「こんにちは」

と、よびかけた男の声におどろいた。ふりかえるなり、伸子は、愛嬌のない眼をそちらにむけた。少女むきの文芸雑誌の記者で沼辺耕三という記者が、原稿をたのみに、といって先頃ちょいちょい訪ねて来た。沼辺耕三は、玄関をあけて入らず、柘榴の下枝をくぐって、いつもいきなり座敷の縁側のところへ姿をあらわした。はじめて来たときから、彼はそうした。